会長挨拶

漢詩・漢文はなくならない

平成33年1月から、これまでのセンター試験は大学入試共通テストとして大きく変わり、選択式の問題を減らして記述式の問題が導入されるという。昨年実施された大学入試共通テスト試行調査、いわゆるプレテストの漢文では、司馬遷の「史記」と佐藤一斎の七言絶句の二つ出題された。この二つを比較させ、登場人物の心情や言動の意味を問うという、なかなか高度な出題と言えよう。これまでの暗記中心主義の問題からの脱却を模索中というところだろうか。勇気ある挑戦と評価したい。
自分の考えを文章にするのは、高度な知的作業である。そのための修練も必要になろう。今はやりの語彙力というものも重要になってくる。語彙力とは、漢語力に他ならない。
昔の日本人は漢文を縦横に操った。読む材料のほとんどが漢籍であったからでもあるが、駄文を排し、漢語を駆使した簡素な文章力を培ったのである。当時から文人たちが冗長な文章を排する所以はそこにある。この簡素な文章力が、まさにこれからの時代に求められているのである。
なるべく短い文章で簡素・的確に自分の考えを相手に伝えることが、学校でも社会の中でも強く求められつつある。世の若者たちがSNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)なるものを駆使して交信し合っていることも、その表れと言えよう。この「文章力」がこれからの共通テストに求められるということは、漢詩・漢文の持つ簡素性が、まさに時代の要請になりつつあるということである。漢詩・漢文はなくならないのである。

(本学会誌『新しい漢字漢文教育』第66号 巻頭言より)